おもしろい文章を発見   


 おもしろい文章を発見しました。

 いま韓流が大きなブームのさなかにありますが、いまをさかのぼること17年前、まだ韓国映画は、まったくといってよいほどかえりみられることのなかった時代でした。

 そうした環境のさなか、冒険的に韓国映画を輸入して、一般公開しようと、いまのアジア映画社を運営している人たちが、意欲的に動きはじめました。李長鎬(イー・チャン・ホー)監督の「於宇同(オウドン)」を第一回作品として、韓国映画日本縦断上映キャンペーンと銘うち、実行委員会を立ち上げて推進していきました。わたしも縁あって、その実行委員会の一員となっておりました。

 文化交流の御旗のもと、各種団体をまきこんで、そのキャンペーンも大々的におこなうことになりました。地元政治家のツテで、衆議院議員、故安倍晋太郎氏のあいさつ文もいただけることとなりました。といっても、あくまでもその形態をふんでの許可をいただけるということで、こちらでその原稿の原案を作成し、ご承認をいただいたうえで掲載するというものでした。その文案作成の白羽の矢が小生に立ちました。

 ちょっと躊躇がありましたが、そうした政界のトップの立場におられる方の文章として恥ずかしくないものをと、心して書きあげました。さいわい、原案どおりにご承認をいただき、パンフレットに掲載させていただくことができました。

 映画の内容を知っていながら、それに触れられないというのは、なんともいえぬ隔靴掻痒の感がありました。いまおもえば、大変よい勉強をさせていただきました。



 <御 挨 拶>


「日本にもっとも近い国、韓国」

 このお隣の国、韓国と日本との狭間に横たわる日本海のへだたりは、日本列島の長さよりもはるかに短い、間近なものです。それほどの間近にありながら、近年、お互いがお互いを深く理解しあえるほどの、幅広く親密な文化交流をつみ重ねる機会が少なく、それを、私はかねがね残念に思っておりました。

 もとより、いにしえにたどれば、日本文化の発芽の多くは、この韓国の地を渡ってもたらされた知識や技術、さらに渡来されたすぐれた人材に負うところ、まことに大なるものがありました。歴史の事実は、現在私達が日本文化と称するものの根底に、韓国文化の幾多のエッセンスが含まれていることを物語っております。

 思えば、私達は、明治以来、西洋文化吸収に精出すあまり、とかくそれのみに心と眼を奪われがちでありました。しかし、いま、より豊かな世界的視野でものを見つめ、考えることの大切さが、あらためて認識され、問い直されようとしております。

 それぞれの民族固有にあるいは国家固有に営々と育まれ続けた、アジアの輝けるすぐれた文化。それらの文化と直接に触れあい、学び、感じとることが、アジアの一員であることの自覚を高め、国際的視野を広めるうえで、より一層重要なものになってきているのです。

 そうしたアジアの文化に対する関心と交流の機運が、いま少しずつ高まって参りましたことは、まことに喜ばしいことと申せましょう。

 ことに88年ソウル・オリンピック開催を控えた韓国におきましては、その力強い経済成長と相まって、世界の大いなる注目と関心を集めております。

 こうした関心が一過性のものとして終わることのないように、両国民のお互いの理解と認識がより深められるべく、このような映画会が催されることは、ことのほか有意義なことと申せましょう。

 すぐれた文化や芸術に接する喜びは、言葉と国家の垣根を飛び越え、じかに私達の胸に響きわたるその感動の力強さにありましょう。まことに、文化の交流は、広く豊かな心を育くむ一つの大いなる機縁でもあります。
 この機会を通じて、日韓両国の間に、さらに親密な有好のパイプが築かれますことを心から念願いたしております。

                          衆議院議員 安倍晋太郎